※ネタバレあり(有名な古典ですから笑)
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【SF小説の古典】新型コロナウイルス感染症パンデミック、かつ、ロシアのウクライナ侵攻から第3次世界大戦が懸念される今、あらためて読むH・G・ウェルズの『宇宙戦争』
※「中村融/H・G・ウェルズ『宇宙戦争』訳者あとがき」より抜粋
ふたつの世界の戦い――『宇宙戦争』をめぐって
夜空に輝く赤い星――火星は古来から人々の想像力を刺激してきた。見る季節によって明るさや大きさをドラマチックに変えるうえに、その色あいが炎や血を連想させることから、東洋では燃える「火の星」、西洋では「戦いの星」となり、人々はその姿に凶事の前兆を読みとってきたのである。
そして19世紀末。この禍々しい星に新たなイメージが加わった。きっかけは、1篇の小説。地球人とはまったく異質な火星人が、圧倒的な科学力を駆使して、地球人を害虫のように蹂躙していく過程を克明に綴ったこの小説は、発表直後から大評判を呼び、無数の脚色や類似品を生みだして、「火星人=侵略者」というイメージを人々の頭に植えつけてしまったのだ。いうまでもなく、その問題の小説こそ本書『宇宙戦争』The War of the Worlds (1898)にほかならない。
ちなみに原題は「ふたつの世界の戦い」くらいの意味。作者H・G・ウェルズにとって「ふたつの世界」とは、地球と火星であると同時に、現在と未来でもあったわけだが、そのあたりの事情はおいおい述べるとして、ここではこの戦いが、国家や民族という規模を超えた文明規模の衝突であったことを確認しておきたい。(中略)
この観点から見るなら、ウェルズが熱線、毒ガス、飛行機といった近代兵器を予告している点が特筆に値する。じっさい、本書が発表された当時の読者よりも、あとの時代の読者のほうが、その迫真の描写に慄然としたと思われる。とりわけ、毒ガス戦の恐怖を描いた部分は、第1次世界大戦後の読者に強い感銘をあたえたといわれている。いっぽう、現代のわれわれの目を惹くのは、レーザーを思わせる熱線と3本脚の戦闘機械だろう。後者はいまでいう筋力強化服(パワード・スーツ)を先どりしており、ウェルズの想像力には舌を巻くほかない。というのも、戦闘機械も多くの場面で「火星人」と呼ばれており、明らかに両者が同一視されているからだ。3本脚の戦闘機械は、いわゆるロボットではなく、火星人がまとうパワード・スーツなのである。
じつは『宇宙戦争』には、もう1種類のパワード・スーツが登場する。いうまでもなく、土木工事に従事する小型の作業機械だ。ウェルズ自身が明記するように、火星人は用途によってパワード・スーツを使い分けているのだ。これに対し縦穴の建設に使われる掘削機械は、自律型のロボットらしいが、これは当時の運河建設に使われた蒸気動力の掘削機械(通称ナヴィー)を自動化したものだからだろう。いずれにしろ、ウェルズは、虚弱化した肉体を機械で補う人間の姿をみごとに描きだした。その意味でも火星人は、未来の存在なのである。(中略)
つぎに特筆すべき脚色は、ジョージ・パル製作のパラマウント映画「宇宙戦争」(1953)だろう。やはり舞台をアメリカに移したうえで、火星人や戦闘機械のデザインを大胆に変更し、まったく新しいイメージを作りあげた。この後も繰り返しTV化、音楽化、コミック化がなされたが、従来のイメージを一新させるにはいたらなかった。
あらすじ
19世紀6月の金曜日の未明、イングランドのウィンチェスター上空で緑色の流れ星が観測され、天文学者のオーグルビーは、流れ星がロンドン南西ウォーキング付近に落ちているのを発見。それは直径30ヤード(27.4メートル)ほどの巨大な円筒だった。夕方、主人公「私」を含めた見物人が群がる中、円筒の蓋が開いて醜悪な火星人が現れた。オーグルビーは、王立天文官ステント、新聞記者のヘンダーソンらと共に急遽<代表団>を結成。火星人がいかに醜悪な外見でも、何らかの知性を持っている以上、こちらも知性を持っている事を示そう、という理由だが、彼らが円筒に近づいた途端、目に見えない熱線が人々を焼き払った。熱線は恐るべき威力で、人間や動物を含め、周囲の木々や茂み、木造家屋などが一瞬で炎に包まれた。夜、英国軍が出動したが、真夜中過ぎに火星人の第二の円筒が落下する。土曜日の午後、軍隊の攻撃が始まったが、夕方には「私」の自宅付近も火星人の熱線の射程内となる。「私」は近くの店で馬車を借り、妻を引き連れ彼女のいとこが住むレザーヘッドへ逃げる。その馬車を返す途中、真夜中過ぎに火星人の第三の円筒が落下。家より背が高い3本脚の戦闘機械(トライポッド)が登場し、破壊の限りを尽くす。馬車を借りた店の主人も死に、出動した英国軍も全滅。自宅に生き残りの砲兵が逃げ込んで来た。
日曜日の朝、二人はロンドン方面へ避難を開始。午後、テムズ河畔に火星人の戦闘機械5体が現れるが、砲撃で戦闘機械の1体を撃破。一旦は撃退に成功する。その戦闘の混乱で「私」は砲兵とはぐれてしまい、夕方、教会の副牧師と出会う。一方、火星人はその夜から、液体のような黒い毒ガスと熱線を使う攻撃に戦法を変更し、軍を撃破してロンドンへと向かう。
月曜日の未明、ロンドン市民はパニック状態で逃げ惑う。軍隊は総崩れ。英国政府は「もはや火星人の侵攻を阻止し、ロンドンを防衛するのは不可能である。黒い毒ガスからは逃げるより他に無い」と避難勧告を出す。これを知ったロンドン在住の「私」の弟も避難を開始。暴漢に襲われていた女性らを助け、共に馬車で英仏海峡の港を目指す。港にたどり着いたのは水曜日の午後だった。3人が乗った蒸気船が出港すると、火星人の戦闘機械が3体現れる。沖にいた駆逐艦サンダーチャイルドは、戦闘機械目がけて突進し、砲撃で撃破。2体目に迫る途中、熱線を受けて大爆発するも、体当たりで2体目も撃破。3体目の戦闘機械は逃げ去り、「私」の弟たちの乗った船は英国から脱出した。「私」は、出逢った副牧師と共に、日曜日の夜から黒い毒ガスを避けて空き家に避難していた。翌日の夕方、火星人が去ったので、2人は逃避行を続け、ロンドン近郊の空き家にたどり着くが、真夜中、突然近くに火星人の円筒が落下。廃屋に閉じ込められてしまう。日数が過ぎるうちに「私」は副牧師と対立。極限状態に陥り、大声を出す彼を殴り倒す。その物音を気付かれ、火星人にあと一歩で捕まりそうになったが、何とか生き延びる。15日目の朝、辺りが静まり返っている。思い切って外に出ると、火星人らは姿を消していた。
「私」は以前出逢った砲兵と再会し、人類が負けた事と将来の事について話し合う。砲兵と別れたあと静寂に包まれたロンドンに入った「私」は、そこで戦闘機械を見つける。死を決意し近づいていくが、そこで見たものは火星人たちの死体だった。彼らを倒したのは、人間の武器や策略ではなく、太古に神が創造した病原菌であった。地球の人間と違って、これらの病原菌に対する免疫が全くなかった火星人たちは、地球で呼吸し、飲食を始めた時から死にゆく運命だったのである。
やがて人々は舞い戻り、復興が始まる。「私」は約4週間ぶりに自宅に戻る。幸い自宅はほぼ無事だった。外で話し声がする。窓から見ると、それは妻と彼女のいとこだった。
【コミック】H・G・ウェルズ『宇宙戦争』、原典通り19世紀末から20世紀初頭のイギリスを舞台にコミカライズ
【映画】いわゆる火星人のイメージを決定づけた、ジョージ・パル製作のパラマウント映画『宇宙戦争』(1953)や、スピルバーグの映画『宇宙戦争』(2005)など
H・G・ウェルズ原作の古典SF映画をスピルバーグ×トム・クルーズでリメイクした超大作
製作はパペトーンの考案者としても有名なジョージ・パル。硬派な映画を撮る事で有名でSFも例外ではなかった。「親指トム」「タイム・マシン 80万年後の世界へ」なども監督している。
ウィル・スミス主演! SFスペクタクル映画の金字塔! 7月4日、その日は全人類にとって忘れ得ぬ独立記念日となる……。
【小説・音楽】数々の翻訳者による『宇宙戦争』
東京創元社 (1969/6/23)
KADOKAWA (2016/3/25)
プログレッシヴ・ロックとクラシックを文学的影響を融合させた、1978年発表アルバムのSACD盤。 (C)RS
【無料】実はインターネットで気軽に読める、SF小説の古典、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』
出典:dl.ndl.go.jp
『宇宙戦争 : 科学小説』 – 国立国会図書館デジタルコレクション
『宇宙戦争』(ネット上にクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで公開されている日本語訳)